音楽大学に在学中の方も、音楽大学を進路として検討している中高生の方も、気になるのは卒業後の進路ではないでしょうか。もちろん、演奏家を志して進学するとは思いますが、演奏家として成功できる人は、音楽大学を卒業した方の中でもほんの一握り。とても厳しい世界です。そこで今回は、音大卒業後の進路として考えられる選択肢をまとめてみました。
このような人におすすめ
- 音大に行きたいが卒業後、就職できるのか、どのような道があるのか不安で迷っている
- 現在、音大に通っているが卒業後の進路が分からず悩んでいる
- 音大を卒業したが仕事のあてもなく就を視野に入れている
演奏家として食べていける人が少ない理由
この記事を読んでくださっている方の多くは、音楽大学を卒業したとして、「演奏家として食べていけるのだろうか」と不安に思っているのではないでしょうか。
「音楽大学を卒業しても大半の人は演奏活動で生計を立てられていない」というのが現実です。そこで、まずは現在の日本において演奏家として生計を立てられる人が少ない理由について解説します。
需要と供給のバランス
一言でいうならば、クラシック音楽は聴く人が少ないということです。クラシック音楽とポップスの市場規模を比べてみるとその差は歴然です。
ポップス:3,780億円
クラシック音楽:318億円
つまり、クラシック音楽は「演奏活動を仕事にしたい」と思っている人に対して、「クラシック音楽を聴きたい(買いたい)」と思う人が少ないのです。
その結果、音楽大学を卒業した後、演奏活動とアルバイトを組み合わせて生計を立てていた人たちが、30代でアルバイトの募集が少なくなり生活に行き詰ってしまうケースも多くあるようです。
音大では演奏力の向上に必要な知識と技能しか教えてもらえないから
前述の通り、モノを売るためには買ってくれる人が必要です。そして、買ってもらうためには”知ってもらう”ということが必要不可欠です。なので、企業には営業やマーケティング等の部署があって、モノを売るための仕組みができています。つまり、演奏活動でファンを増やすためにはマーケティングの知識が必要なのです。
また、フリーの演奏家として活動していく場合、個人事業主となるので経営学や会計等の知識も必要となります。しかしながら、マーケティングも経営学も音楽大学のカリキュラムでは学ぶことができないのが現状です。
音大卒業後の進路として考えられる選択肢
上記の2点からもわかるように、音楽大学を出たからといって、誰もが演奏家として生きていける訳ではありません。
「結婚して子育てをしたい」などのライフプランがあるのであれば、演奏家として成功する可能性に賭けるよりも、保険として演奏家以外の選択肢も考えておくと安心です。年齢制限がある職業もあるので大学在学中からよく調べておくことをおすすめします。
ここでは、音楽に携わる様々な仕事をジャンル別にまとめましたので、是非参考にしてみてください。
演奏家
音楽大学に進学する学生の多くは演奏家志望ではないでしょうか。偏に演奏家といっても、プロのオーケストラや吹奏楽等の団員から、フリーの演奏家、スタジオミュージシャン、テーマパーク専属の演奏家まで多岐にわたります。
ここまでは、演奏家として生きていくことの厳しさについて解説してきましたが、WebやSNSの普及により、以前と比べたらフリーランスとしての可能性は広がっています。SNSがきっかけで有名になるミュージシャンも増えており、業界的にもSNSはチェックしていると考えられます。
音楽大学では学ぶことはできませんが、YouTubeやTikTok等のSNS活用からマーケティング、経営学まで、独学で様々な知識を付けることで道は開けるかもしれません。また、人づてに仕事を貰えることも多いので、人脈作りも重要となります。
教育系
音楽大学に進学する学生に人気の職業といえば、音楽の先生など、「音楽の楽しさを伝える・教える」仕事。小学校、中学校、高校の音楽の先生の他にも、音楽教室の先生や自分で教室を開くという選択肢もあります。
中学校、高校の教員免許についてはほとんどの音楽大学で取得することができますが、小学校や幼稚園については取得できない大学もありますので、大学選びの際には注意が必要です。
教員になりたいという明確な目標がある場合は、音楽大学意外にも教育学部の音楽科などもあるので、大学選択の際には検討してみると良いと思います。
公務員の音楽隊
管楽器や打楽器を専攻している方は、様々なセレモニーで演奏しているマーチングバンドを見て一度は憧れたことがあるのではないでしょうか。
警察・消防・自衛隊それぞれに音楽隊があり、活動内容等も異なるので応募する前には必ず確認してください。また、髪型や髪の色等の規定もあるので、おしゃれを楽しみたいという方は注意が必要です。
2022年「異動辞令は音楽隊!」という映画が公開されましたが、実際には楽器未経験の人がいきなり飛ばされるということではなく、定期的に募集があり実技試験や筆記試験で採用を決定しています。管楽器や打楽器はもちろん、ピアノや声楽、アレンジャー等の募集もあるようです。
芸能界
ヴァイオリニストの高嶋ちさ子さんやピアニストの清塚信也さんのように、バラエティ番組等で活躍している方もいます。
このような道を目指すのであれば、芸能事務所への所属は必須となりますし、演奏スキルだけではなく、トークの面白さや容姿の綺麗さなど、テレビ映えする要素も持ち合わせている必要があります。
業界内の繋がりが強いので、多少のコネは必要な世界なのかもしれません。
裏方系
演奏家さえいればコンサートが開催できるわけではありません。演奏者が気持ちよく演奏でき、お客様が気持ちよく演奏を聴くことができるために、華やかな舞台の裏側では沢山の方が働いています。
たとえば、ホールの音響や照明等の技術さんから、ピアノの調律師、リペアマン、演奏会の広報担当者まで沢山の人のおかげでコンサートは成り立っているのです。
人の役に立つのが好きという方は、裏方の仕事も検討してみてはいかがでしょうか。
一般就職
一般就職で音楽系の仕事を探す場合、楽器メーカーやレコード会社等様々な選択肢があります。ここでの注意点は、楽器メーカーに就職できたとしても総務や経理など部署によっては音楽と関係ない仕事がほとんどということです。
「演奏会の企画が楽しい」という方はマーケティングや営業企画など企画職の方があっているでしょうし、「コツコツと何かを作ることが楽しかった」という方は製造系の仕事が向いているかもしれません。
音楽に携わる仕事=楽器メーカーのような決めつけをせずに自分の得意なことと照らし合わせて柔軟に選択することが大切です。
どうやって選べば良い?
演奏家や音楽隊を志望するのであれば分かりやすいですが、裏方の仕事や一般企業への就職を考えた場合、どのように選べばよいか基準がわからないですよね。
ポイントとなるのは「嫌いではないか」です。若いうちであればキャリアチェンジも容易にできますが、30代に入ると一気に未経験OKの求人は少なくなります。何らかの経験がないと採用してもらえないのです。
そのため、安定した生活を送るためには、新卒から長く継続できる仕事を選択してキャリアを積み上げておく必要があります。
好きなこと、憧れの仕事、と考えてしまうと、その仕事の嫌な面が見えないので、入社してから、”意外と肉体労働だった”とか”残業が多すぎて楽器に触る時間がない”など、「こんなはずではなかった」となってしまう可能性が高いです。
嫌でない仕事であればやっていくうちにやりがいを見出して好きになる可能性もありますが、嫌いなことを好きになることは難しいです。
なので、職業選択の際には、自分の嫌なことと好きなことを紙などに書いて整理してみることをおすすめします。
まとめ
音楽大学では卒業後に生きていくためのスキルは教えてくれません。また、演奏が上手なだけでは仕事が貰えないのが現状です。演奏家一本に選択肢を絞らずに、常に演奏家を諦める時を想定して保険をかけておくことで、安心して演奏活動に専念することができます。
演奏活動は好きだけど、なるべく安定した生活がしたいというのであれば、なるべく定時で上がれる副業OKの仕事を選択してダブルワークで演奏家を続けるという選択肢もあると思います。
世の中にはどのような職業があるのか、情報収集力がカギを握ります。「演奏活動がしたいから卒業後はアルバイト一択」と決めつけるのではなく、大人になって困らないように、ぜひ柔軟に仕事を探してみてください。